吸血鬼ハンターシリーズ.今回はDのにせもの登場.今までに触れられることの無かった,D自身の謎に迫る.にせDがいい味出してる.
「わかるか,D,おれたちが生まれたのは,母の家でも分娩室でもなく,実験のための部屋だったのだ」
おなじみとなりつつある建築探偵モノ.今回はちゃんとした推理小説っぽい.ある男女の40年後の再開.ねじれた愛情から生まれる惨劇.『卒塔婆小町』も併せてお読み下さい.
「殺すことによってしか成就し得ない愛もあるのだということを,私はこの歳になってようやく知ったのだ」
一次大戦後の昭和初期を舞台とした探偵小説.系譜探偵社への一つの依頼が殺人事件に行き当たる.姓名と家紋を鍵とした推理ってのも面白いが,主人公のキャラクターがくどくて,一度読めば御馳走様だね.
「ときに君は天皇陛下がなにゆえ尊崇されているのだとおもう?」
タイムトリップによって二・二六事件前夜に連れてこられた少年が,陸軍大将の自殺に居合わせるという推理小説.自殺死体なのに拳銃が見つからない事から不審を抱く少年だが,それに時間旅行者まで加わるものだから,推理小説として良いものなのかどうか.だが,昭和11年がどんな時代だったのかを垣間見ることの出来る良い作品だと思う.何処まで正確なのかはともかくとして.
何も終わってなんかいない.これから始まるのだ.これは終わりの始まりなのだ.
ヴァーチャルアイドル,投影麗を問題の中心とした近未来SF.大地震崩壊後の東京を舞台にしてはいるが,特に日本に対するこだわりはなさそう.大きな陰謀とか悪の組織なんぞが出てくるわけでもなく,『近所のちょっとした事件』程度で呆気なく物語は終わってしまうけれども,そこに妙なリアリティーを感じる.未来的な小物の描写もマル.
「視聴者はいじわるで,怠惰で,おそろしく無知で,聖別された温かい神の肉を求める,つねに飢えた生き物」
探偵小説.失踪した女子高生の捜索を依頼された探偵の物語だが,此処まで冴えない探偵も珍しい.銃を乱射することもなく,美女との情事もなく,殺人犯とやり合うこともない.山場があるとすれば,暴力団からリンチを受ける処くらい.だが,ひたすら依頼に忠実な様を“生き方”とする主人公に好感を覚える.ハードボイルドといっても良い.そんな中で,有機溶媒依存症の少年が更生するくだりは,善い話に持って行き過ぎな気がして嫌.嘘臭い.
「男と女のちがいじゃないか.男とは若い女とつきあうと,説教をたらして成長させようとする.女はそうじゃない」
速鳥の座右の書『完全自殺マニュアル』の鶴見済による一冊.キーワードは覚醒剤とドリルとダンス.色々な雑誌へ書き散らかしたコラムを集めて書き直したもの.完全書き下ろしは麻薬所持で起訴された体験記と,擁護派としての「覚醒剤の正しい知識」.言わんとしている事は『完全自殺マニュアル』の頃から変わっていないが,このヒトの作品は非常に分かり易くて為になる.あえて三ツ星.
日常生活と刑罰は,実は似ていて当然だったのだ.これらの機関はどれも,人を管理するための同じ技術を採用している.ドリル.
乱歩の最高傑作のひとつと評される中編.昭和3年に書かれた作品だが,現在ある探偵・怪奇小説の原点となっていると言っても過言ではないだろう.100ページちょっとでさらっと読めるが,読み終えるのを惜しむであろう秀作.
また文庫版には,長編『孤島の鬼』も収録.密室殺人,同性愛,フリークス,地下迷路,埋もれた財宝など,様々な要素を詰め込んだ傑作.ちょっと,詰め込み過ぎかも.
もし私が道徳的にもう少し鈍感であったならば,私にいくらかでも悪人の素質があったならば,私はこうまで後悔しなくてもすんだであろう.
怪文書体質である妻と夫の冷めきった夫婦関係が,怨念渦巻く修羅場と化してゆく.とても人間味溢れる作品.小道具である「骨貝」も効果的に使われて,歪んだ人間の思いを描き出す.そんなどろどろした前半部に比して,後半これからって時にあっさりと終わってしまい,物足りなく思う.前半部の“念”が消化し切れていない,拍子抜けの一冊.ラストまで勢いで突き抜けて欲しかった.
「人間というものは,ある程度はイヤな面を人に対して出していかないと−つまり,ときには人に嫌われる勇気をもたないと,性格は歪みます」
色々な推理小説を読んで沢山の探偵を見てきたが,この作品で登場するのは“電波系探偵”.地検の検事が,ある日突然“啓示”を受けるという,非常に突飛な発想.この設定は笑える.が,ダンテの神曲をここそこに引用して進むストーリーはひたすら暗くネガティブ.“声”に導かれ,苦悩しながらも事件は解決するが,最後に待っていたのは“裁き”だった.同じ様な説明文が繰り返し出てきて,うっとおしい感があるが,個人的にお勧めの異作.面白くないかもしれないが,とりあえず読め.
「被告人を死刑に処す.判決理由.当裁判所は,どんな人間も人間であるかぎり,必ず極刑にあたいする罪を犯しているものと認めるものだからである」
『神曲法廷』続編.あれから2年経ち,再び姿を見せた主人公は何と検事を辞めて“ホームレス探偵”になっていた! やっぱり笑える.前作ほど“電波系”では無いが,やっぱり物語の雰囲気は暗い.そして救われない.良いなぁ,こーゆーのをリアルってゆーのかしら.
「ぼくはいっさい人との係わりを拒否して生きていきたいとそう願っていた.人と係わりあうのが恐ろしかった」
昭和50年前後に書かれたショートショート24編.良い意味で“ふざけた”作品だ.中には何だか解んないモノもあるが,バカな話と笑って気楽に読める.
女たちには理由なんか不必要なのだ.自分たちの感覚で納得できる道徳さえあれば何もかもそれで割り切ってしまうのだ.
作者しては珍しくホラー色の濃い短編集.いつものホンワカした作品とは異なり,何となくやるせない思いを抱く.それでもさくっと読めるのは,さすが赤川作品といったところか.表題作の他,3編を収録.
「これはインチキで,やるべきじゃないことだ.だがな,吉井,世間はそれじゃうまくいかないこともあるんだ」
これまた筒井康隆の,やはり当たり外れがある短編集.読み易いが,やっぱり解らないモノも多い.
宗教とか正義とか善とかいう大義名分がある時ほど人間の残虐行為がエスカレートするときはないのだ.
物々しいタイトルだが,中身は町内ミステリー.すべての事件は町内で起き,そして完結してしまう.ワールドワイドな話が多い中,こんなのも一風変わっていて面白い.が,“言っていることがホントか嘘か分かってしまう”という設定の探偵役は,やりすぎだろう.こうなるとミステリーと言うよりはSFになってしまう.ご近所ほのぼのな雰囲気の中,レイプやら殺人やらと物騒な事件が頻発.その合間々々にご近所エピソードがはさまれていて,ちぐはぐしている感が否めない.ラストも無理やりにハッピーエンドにしてしまっている感じ.いまいち.
「こんな時代ですものね.子供を生んでから教育を論じていては間に合わないのよ」
被害者の脳を調理して食べるという連続殺人事件を追う二人の刑事の物語.サイコサスペンスと思いきや,話はSFの方向へと進んでゆく.内容の割に上下2巻はちょっと多過ぎるような気もするが,スムーズな展開で飽きさせない.久々の二つ星作品.悪意に満ちた世界へようこそ.
これが,あなたたちの素晴らしい世界.私の愛するアナザヘヴン.
壮大なスケールのようで,実際には 今回は1巻から3巻までを読破.どうやら第6巻+外伝まで有るらしい.先は長い.
「ねえ兄ちゃん,人は一番やなことを考えているとき,顔では笑ってるんだ.それはね,一番嘘つきやすいお面だからなんだよ」
題名そのまんまのホラー短編集.オチも,すぐに読めてしまうものから何を言っているのか解らないモノまで,両極端の作品が17編.内容よりも雰囲気を味わう作品だろう.おどろおどろしい題名だが,短編集ということもあって結構あっさり目.グロテスクな表現が多いけれど,それを気にしなければ暇つぶしに読むのにちょうど良い.
人間には辿ってはいけない道があるのです.
原作マンガの小説版.良くあるスーパーマンモノなんだけど,スーパーマンがうようよ出てきてちょっと読みにくい.途中で投げ出したくなった.せめて一人に絞ってくれれば.マンガで読んだ方が分かり良いだろう.
『記憶の果て』『時の鳥籠』に続く第3弾.『記憶の果て』での主人公,安藤直樹が再び現れる.今回は連続首切り殺人事件という,非常にミステリー色の濃い作品.前作までの陰鬱な雰囲気はかなり抑えられているので,期待して読むとちょっと片すかし.物語は完結するものの,この事件の本当の原因は『記号を食う魔女』で明らかになる.
「すべてを知ろうなんて贅沢だ.人間には過ぎることだ.もっと情報に対して禁欲になれ」
続く第4弾.『記憶の果て』でも登場した安藤のかつての友人,金田が殺人犯として登場.男性ばかりを狙った連続殺人事件というこれまたミステリー仕立てだが,中身はかなり... なんつーか,家族とか血縁とか,そーゆーものに対する見方が狂いそうな感じ.ちょっと表現力が足りないけど.
「そんなの分からないよ.何が本当で何が嘘かなんか,所詮私達には一生分かる筈がないのよ」
そして第5弾.今度はすべての原初である祐子が登場.クラスメイトと訪れた小島で起こる事件.ここでまた気色が変わって,何というか,気持ちの悪い作品.前作までに抱いていた祐子のイメージが,大きく変わる.
5作品通じて言えるのは,設定はSFチックだが,部分々々で妙なリアリティーを感じるということ.特に登場人物の思考や心理描写など,嫌になるくらいに.そして,読んだ後にはため息を付いてしまうくらいに報われない話.鬱傾向にある人は注意.
「だから私達には,トロい人間を見ると殺したくなるシステムが先天的に備わっているのよ.そういう人間の遺伝子を後世に残すのはリスクが大きすぎるから」
暇なときにさくっと読める赤川次郎モノ.本作は大学入試に関わる話なのだが,どうも最近の三毛猫シリーズは準主役の物語となっているような気がする.片山一家の出番が少ない訳では無いのだが,脇役のストーリが目立ちすぎ.昔を知る速鳥としては,もう少し片山刑事に活躍してもらいたいな.
「女はいつも哀しいわ.ねえホームズ」
1999年12月と舞台設定をしている,本シリーズとしては珍しい(おそらく初)作品.去年のミレニアム騒ぎや宗教的世紀末思想をネタとして取り上げている.生憎と現実ではウマシカカップルとメディアが騒いだだけだったが,作品中では2000人を人質に100億円を要求する大事件が.オウム事件とかがあった後だし,展開はちょっと安易かな.面白いけど企画モノって感じで.
「ああいう危険なグループがあるというのは,上の方にはある意味で都合がいいんだ.みんなの不安をかき立てて,それを取り締まるという名目で,自分たちに都合のいい法律を次々に作れる.あの教団がなくなっても,法律は残るんだ」
時々耳にする「南京大虐殺」や「従軍慰安婦」問題.それが政治の世界と言うこともあって,此が一体何を問題としているのかを速鳥は知ろうと思わなかった.もう50年も前の話だし,そんなのもう,どーだっていいや_ だが実際には違う.此はこれから先の問題だった.
第二次世界大戦で敗戦した後,その非はすべて日本にあったと言われ続けている.口に出さなくてもみんなどこかでそう考え,それに恭順しているはずだ.そしてその結果,歴史の教科書には必要以上に日本兵の極悪非道さが書き連ねられ,前述のような問題が“日本人の口から”声高に叫ばれている.この根元は日本人の「自虐史観」にあると著者は言う.
この中では特に歴史教科書の記載や「従軍慰安婦」問題をめぐる歴史的検証と,その結果生じたマスコミとの確執について述べられており,現在の日本人がどれほど「自虐史観」に侵されているかをまざまざと見せつける.もちろん,これらがすべて真実であるとは言えないが,疑うべき証拠は無きに等しい.別に右翼かかって居る訳では無いが,日本人としての尊厳をが著しく貶められていると感じる.
著者は教育学部の教授.正しい歴史の教科書を作るためにあれこれ調べているうちに,歴史学者のようになってしまった方.著者は端々で『陰謀』という言葉を使い,「こいつもしかして陰謀論者?」とか胡散臭げに思えるのだが,そこさえ気にしなければ真面目に読める.目から鱗の落ちる一冊.知らないヒトは是非ご一読.速鳥は感化されました.