久々に感動した大作.『記憶の果て』は,自殺した父親のコンピュータの人工知能に人間的な感情を持ってしまった高校生の話.友人関係や家庭問題など,若さ故の苦悩を描いた作品.静かだが,文面にあふれる感情を感じられる.
『時の鳥籠』は,記憶の混乱した少女が,実はある目的を持って未来から送り込まれたものだった,といった話.自分のいた未来に馳せる想い,新たな世界での友人,かつての恋人,過ち.最後に彼女は,時の鳥籠を知る.二作には関連があるので,順番に読むこと.
★★★:簡単に言い表せないこの感動を味わってほしい.
秋せつらの長編物語.転生によってかつての仇討ちを行う,“江戸の恨みを長崎で−”的な話.作者の趣味が出てるのか?
・・★:せつらの活躍が少ないぞ.
知らぬ間に人間にすり替わるゾンビーを始末するための特殊機関に属する若者の物語.憎悪に支配された人間の苦悩の様がみられる.が,そこまで深く心理描写があるわけでなく,アクション小説としても物足りない.
・・★:さらに3巻に続くが...
なにこれ?
・・・:菊地作品にも飽きたのかしら.
嫁ぎ先の家族はみな少し変わっていたが,一番おかしいのは,誰もが祖母に逆らえないでいる事だった.そして,この家族の秘密が暴露される.家族としての関わりを描いた,菊地作品としてはめずらしい作品.一応の結末はあるが,続きが気になる.続編を望む.
・・★:続編がなきゃ,無理に読むものでもない.
密室殺人を扱った古典推理小説.意外すぎる犯人は,ほとんど反則の域.
・・・:古典にケチつけるのもなんだが,これも仕方なし.
記憶喪失の少女を引き取った精神科医の家庭に起こる怪異.催眠療法で判明する少女の正体は... って,訳もなくポルターガイスト起こしたり,飼い猫が襲いかかったぐらいでホラーっつーのもなぁ.
・・・:落ちはよかったよ.最後の数行はね.
片田舎の町で起こる幼児連続殺人.子供を殺された親たちの,やり場のない怒り,妬み,責任転嫁,崩壊してゆく人間関係.母親の念を感じる一冊.そういった意味で,怖い.多少,展開があっさりしすぎている感もあり,もう少し物語に厚みがほしかった.気にくわないガキも出てくるし.
・・★:母親になら,心情が理解できるだろうか.
おなじみ,秋せつらの物語.全4巻.これだけ長いと,物語を把握するのに疲れる.結局,F男爵は何のために<新宿>に来たんだ?
・・★:怒濤の4巻に耐えられるか.
やっぱり,テレビ=娯楽ってのは小説化しても一緒.文学じゃない.でも,その分面白い.きっちり解決されるわけでないので,それまでの雰囲気と,事後の余韻を楽しむものと割り切って読むべし.推理小説なんかと一緒にしちゃいけない.
・・★:ふつうはテレビ見るだろ.
これぞ,速鳥が求めていたホラー.樹陰荘の6組の住人に忍び寄る怪異はこの呪われた建物のせいなのか.日常の向こう側からじわじわと染み出す異常.知らぬうちに[向こう側]に入り込んでしまったのではないかという不安感.断章化された特殊な書き方で,見事に読者を世界に引きずり込む.
終盤,ミステリー色が濃く(理屈っぽく)なってちょっと興ざめしてしまうのが残念.しかし,精神異常者にも幽霊にも頼らず,ここまでのものに仕上げているのは素晴らしい.
★★★:ホラーの雰囲気,十二分.おすすめ.
精神病院入院患者を取り上げた中編集.異常と正常の境目はどこか,自分が塀の向こうとこっちの,どちらにいるのかわからなくなる.自分が居るのは,果たして[正常]側なのだろうか.日常=正常ではないということを,今一度考えてみるべきだ.
表題作は,解決編のない推理小説を探偵が読み解いてゆく話だが,この小説には別の意味合いもあって...
・★★:題材はいいが,三ツ星には及ばず.
薬師寺涼子の怪奇事件簿,続編.相変わらずのお涼の傍若無人ぶりは,すでに前作で強力な個性にメロメロ(死語)になっている速鳥には心地良い.今度はメデューサからミノタウロスからでてきて,リアリティーを大事にする人にはお勧めできない.ストーリーはともかく,キャラクターで引っ張ってくれる一冊.
・★★:垣野内成美さんのイラストがまたまた...
ストーリー的には大したことはないのだが,X-ファイルらしさはでている(と思う).訳者が良いのか.謎を完全に解明しないで余韻を残す手法に賛同できるかどうか.
・★★:まさに,X-phile.ちなみにスカリー派.
一時流行った,多重人格推理もの.文中で示される手がかりにあれこれ推理するも,最後まで犯人を特定できなかった.その点で,読者に‘推理’させるいい小説じゃないかと思う.しかし,一人二役よりも厄介なこのテーマ.多重人格にすれば何でもありって,反則のような気もしないでも無いんだが.
それにしても,『幼い時の心的外傷が』ってパターンもありきたり.すでに食傷気味.
・・★:決して悪い作品ではないんだけど.
猫を題材にしたホラー小説.引っ越した家に出現する猫.妙になつかれる夫と,こころ乱される主婦.テーマとしては悪くないが,様々なエピソードが断片的で物語の全体的な流れに結びついていない.プロット無視の,その場限りの情景描写にのみこだわっているようにみえる.またその結末は,1988年ものという事もあってか,最近のホラーものに比して時代遅れの感が拭えない.作者は猫好きとのことだが,単に猫でひとつ作ろうとしただけではないだろうか.内容は貧弱.
・・・:なんにつけ,中途半端.
アメリカンなアクション映画を,新宿を舞台に撮ったような小説.よろず屋に持ち込まれた4つの依頼,「野良猫を探してくれ」「空きボトルが無くなる」「店子の素性調査」「公園が欲しい(!)」.これらの依頼を調査するうち,ひとつの大きな陰謀にたどり着く.バズーカやらヘッケラー&コックのSMGが出てきて死体累々,素人女が高速道路で発砲と,イージーな洋画並の展開で“日曜洋画劇場”程度には楽しめる.リアルともヴァーチャルともつかない作風が多少気にはなるが,最後10節にわたるエピローグに待つそれぞれの結末に,安堵感を持って読み終えられるだろう.
ちなみに,巻末の解説は読まない方がいい.
・・★:超娯楽大作と銘打つだけある.“超”と“大作”はともかく.
恋人の女の子から現れた別の人格“ブギーポップ”.世界の危機が迫ってるときに“彼”は現れる.角川電撃文庫らしい,ファンタジー風味学園モノ.各章を登場人物の視点を変えて書くという面白いつくり.話の流れはありがちだが,なんだか人気があるらしく,続編が多数ある.やはり,中高生向けか.
・★★:漫画化までされているようだ.
通常の新書判3冊分に相当する大作.清涼院らしい言葉遊びを盛り込んだ推理小説風エンターテインメント.《密室卿》による連続密室殺人事件に,九十九十九(つくもじゅうく)が挑む.ばかげた設定や登場人物達だが,あくまで「推理小説風」.読むためには広い心が必要.
・・★:だが,この分厚い本を読む気になれるかどうか.
現在でも続く貴族の支配によって,保護され繁栄している村.表面上平穏を装っているが,保守派と独立派の村人間の確執.そんな村へDはやってくる.
・・★:めずらしく,1巻完結.
「建築探偵桜井京介の事件簿」と副題にあるが,どのあたりが建築探偵なのかよく分からない一冊.10年前の殺人事件に居合わせた人間が再び集められ,新たな事件が起こるというありがちな展開.特別,建築物が云々と講釈があるわけで無し,良くも悪くもフツーの推理小説に落ち着いている.
・・★:シリーズ化されてるので,別巻に期待.
菊地秀行お得意,全四巻.父親を殺すために旅する貴族.ハンターであるはずのDが,その護衛の依頼を受けた.女貴族と人間の姉弟が加わった一行に,襲い来る父親の刺客.一行を待ち受けるものは?
めずらしく貴族と人間との交流が描かれている作品.このやりとりが,結構面白い.果たして,お互いに理解し合えるのか? ちょっと作りが荒いような気もするが,ファンには十分に楽しめるはず.
・★★:やはり最後は,悲劇.
個人経営の精神病院で起こる連続殺人事件.推理なのかホラーなのか,それともサイコなのか,良いトコ取りにしようとして失敗している感じ.物語的に,浅い.
・・・:『猫窓』よりはマシ.
登山パーティーを襲う血に飢えた殺人鬼,と言うありがちなサスペンススリラー.かなり生々しい惨殺描写なので,弱い人は注意.ストーリーとしては特別取り上げるところはないのだが,所々に?と思わせる部分が出てきくる.これらに気付くかどうかが分かれ目.注意していないと読み飛ばしてしまい,全く面白くなくなってしまう.
・・★:対象年齢15歳以上.